うつくしきこと
2021.07.07

藍が育む「自然と人間と地域の発酵関係」とは? ~神田藍プロジェクト

藍・染物・発酵
(読了時間 : 9分)

 

わたしたちの身の周りや体内にすんでいる「微生物」は、古くから人間の暮らしに深く関わっています。伝統的な染色である「藍」にも、微生物が関係しているのをご存知ですか。 

その「藍」を東京の神田で育てるプロジェクトがはじまっています。「藍」を媒介に、地域の方々、また全国の藍にまつわる人々が関わる場づくりです。なぜ神田で藍を育てているのか? 今回、プロジェクトを推進する一般社団法人「遊心」代表理事の峯岸由美子さんから話を聞きました。聞き手は発酵研究人でKOSMOST副編集長の“はっこうちゃん。” です。 KOSMOSTでは、毎月このプロジェクトの様子を紹介していく予定です。 

> 関連コラム日本の美と微生物 1「ジャパン・ブルー 藍のはじまり」

 

人間は生態系のピラミットの頂点にいるのではなく、自然の一部 

はっこうちゃん。(KOSMOST副編集長, 発酵研究人。以下、は):峯岸さんは、一般社団法人「遊心」を立ち上げられ、親子が楽しめる自然のなかでのワークショップをなさっていますよね。どのようなきっかけがあったのですか? 

峯岸由美子(以下、峯岸):「遊心」は「自然や家族を愛しいと思う心を育む」というテーマで活動しています。私自身は、東京生まれの東京育ちで、植物や生き物と親しむ機会が限られていました。もちろん、週末に郊外へ出かけたりもしましたが、日常生活の中でも同じように自然を感じることは、なかなか難しかったんです。 

:都心にいると自然との共生関係がなかなか実感しにくいですよね。 

峯岸:一見そう思えるのですが、よくよく都市部の公園や街路樹をのぞいてみると、実はいろんな植物や生き物がくらしていることがわかってきました。そこで、都会の中での自然体験ワークショップをはじめました。自然体験活動自体はもう30年以上、都会をフィールドに自然学習をはじめてから、10年ぐらいがたちます。 

:その間、きっとたくさんの親子が参加されてきたのですね。具体的にはどのような取り組みですか? 

峯岸:都市部の公園や街なかといった身近な場所で行う、五感を使った遊びがあります。五感を使って自然とふれあい、いろいろな感覚を研ぎ澄ませることで、実体験として色々なことを学ぶことができます。コロナ禍の前は、およそ年間2500~3000人が自然体験をしていたんですよ。 

自然とのふれあい・自然体験活動・五感をつかった遊び

新宿御苑での自然学習プログラムより 

 

:自然のなかでのワークショップとなると、予期せぬことや思い通りにいかないこともありますよね。 

峯岸:そう、そこが自然を実体験することのいいところでもあります。「思い通りにならない世界=自然」と気づけば、そうした状況でどう自分が判断していくかを学ぶ機会になります。こうした体験から、人間が、生態系のピラミットの頂点にいるのではなく、自然の一部だと実感することができるようになります。 

たとえば、土を耕すところから畑づくりに参加した場合、普段は野菜を一切食べないお子さんが、自分の育てたシュンギクは食べられるようになったり。もちろん、野菜嫌いはすぐにはなおらないかもしれませんが、人間と自然との関係を知る機会になります。それが子どもたちの成長にとって大切だと考えています。 

 

公園からオフィスビルの屋上へ 

:ワークショップには、子どもだけでなく親御さんも参加されているのですよね。 

峯岸:そうなんです。意外と親御さんも自然と親しんだ経験が少ないんです。一般的には「土や自然に触れることにはリラックス効果がある」などと言われますが、虫や自然が苦手な親御さんにとってはストレスフルなことでしかない。 

そこで、お子さんや他の家族が楽しそうに自然に親しむ姿を見て、「自分もやってみよう」とか「子どもがこんなに喜んでくれて嬉しい」といった気持ちになり、自然への意識が変わってくる。仲間がいるとこういう効果もあるんです。 

:自然に親しむ体験をすることで、親子や家族の関係も育まれているのですね。ところで、オフィスビルの屋上で藍を育てはじめたのには、どんないきさつがあったのですか? 

峯岸:都心で自然体験ワークショップをした時に、神田にあるオフィスビルのオーナーと知り合い、屋上を貸してくださることになったのがきっかけです。はじめは親子向けのプロジェクトとして、屋上菜園をはじめました。 

屋上菜園・自然体験

神田にあるビルの屋上で親子とともに行われた屋上菜園 (左上/左下)・屋上菜園で育てた和綿(右)

 

野菜には見られない「藍」の魅力 

KOSMOSTのTwitterを見てくださる方々のなかには、家庭菜園をされている方も多くいらっしゃいます。神田のプロジェクトでは今回、野菜ではなく、なぜ「藍」を選ばれたのでしょうか? 

峯岸:植物を「食べる」というひとつの見解だけでとらえるのはもったいないなと思ったんです。新型コロナウイルスの影響でベランダ菜園も人気になっていますが、植物は食べられるだけじゃなく、衣服にもなっているし、家の建材とも関係がある。植物は、実はわたしたちの生活と想像以上に関連し、つながりあっています。藍は、葉っぱを摘んで染めるだけでなく、食べることもできるんですよ。 

屋上で育てている藍・藍の花

屋上で育てている藍 (左)・藍の花 (右)

 

:藍には、くらしとのいろいろな関わり方がありますよね。 

峯岸:そうなんです。しかも藍は野菜よりも手入れが簡単。都会の屋上は野菜には暑すぎて、土の中の微生物も腐ってしまいます。ところが、藍はタデ科の植物で、太陽が大好き。屋上やベランダで育てるにはもってこいの植物なんですね。 

:藍には天然の抗菌作用もありますよね。これも不衛生な状況で衛生的にくらすために先人が編み出した知恵。こうしたことも藍から学ぶこともできますね。 

峯岸:加えて、藍染の美しさも、大きな魅力のひとつですよね。このような理由もあって、2019年から屋上で藍を育てはじめ、親子向けに染め物ワークショップを行いました。 

:藍は大きなカテゴリーでいうと、実は雑草の仲間ですよね。他の雑草からしたら「必死に生きているのに、藍は人間に世話してもらってうらやましい!」といった声も聞こえてきそうです(笑) 

峯岸:そうですね、藍はわたしたちのくらしにも関係深い、身近な存在です。昨年は、子どもたちとの藍染ワークショップを予定していたのですが、新型コロナウイルスの影響で中止に。2021年は、神田の企業や酒屋さんなどが新たに6社加わり、気持ちも新たに「神田藍の会」を立ち上げました。 

 

神田藍の会・藍・人と自然と地域を結ぶ

人と自然と地域を結ぶ、「藍」という媒介 

:このプロジェクトではどのような活動を? 

峯岸:「神田藍の会」は、「神田に住む人、働く人、愛する人たちが共に力をあわせ、神田をより楽しく、心地よく過ごせる街へと育てる」ことを掲げています。現在は藍を育てており、7・8月には染めの作業をする予定です。Facebookページに、活動の様子を紹介しています。 

: 東京のビジネス街で、藍を育てようというのはおもしろいですね。 
 

峯岸:そうですね。屋上菜園の活動をしていくうちに、神田という街が、かつては染物屋の集まる日本有数の「紺屋町」だったことがわかってきました。全国の藍や問屋が集まり、いろいろな地域同士を藍で結んでいた場所だったのですね。 

「神田藍」というキーワードも、単に藍を育てたり染めたりするだけでなく、コロナ禍がつづく中、藍を通じた関係づくりによって、神田の街に関わるみなさんがもっと元気になったら、という思いから生まれました。 

:「藍をつうじた自然と人間の関わり」にとどまらず、「藍を媒介にした地域・関係づくり」も視野に入れているのですね。 

峯岸:もともとは、子どもたちに衣食住や生活の中の自然を身近に感じてもらえればと始めました。今年プロジェクトに集まったメンバーのなかには、それだけにとどまらず、「商品として提供できないか」と思うビジネス・パーソンもいれば、「かつての紺屋町としての神田を復活させたい」という地域の方も出てきています。 

:藍プロジェクトは、人間と自然のあいだだけでなく、世代や目的も異なる人々や地域も結んで、発酵場をもたらす媒介、別の言葉でいえば “インターミディエイター*”そのものかもしれませんね。 

峯岸:はい、神田という土壌が藍によって発酵し、柔らかくなりはじめているのを感じています。藍を通じて、今までにない、様々なバックグラウンドの方々との関係が醸成されつつありますし、これから、さらにいろいろな方たちがこのプロジェクトに参加くださると嬉しいです。 

:「神田藍の会」の活動に興味がある方は、どのようにこのプロジェクトに参加できますか? 

峯岸:まず藍を育てることができます。育てている藍を育苗ポットに分けて、企業のスタッフさんやお隣さんなどにプレゼントして育ててもらう里子制度も行なっています。ご希望の方は、育苗した藍(有料)をお届けすることもできます。 

神田藍の会・パンフレット

神田藍の会のパンフレット。 

詳しくはFacebookウェブサイトからお問い合わせを。 

 

:神田と直接的に関わりのない方も、関心があれば一緒に活動をすることができるのですね。峯岸さんには、7月から毎月KOSMOSTでも、「神田藍の会」で育てている藍の様子や、自然と人間と地域の関わりについて、コラムをお届けいただく予定です。どんな展開になるでしょうか、楽しみにしています。 

 *インターミディエイター: あいだの知の担い手。 

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