自転車競技の世界女王であり、この夏の五輪でも大活躍した梶原悠未さん。そして、マネージャーとして母として、二人三脚で歩む梶原有里さん。お二人のインタビューの最終回です。アスリートとしてのマインドの整え方から始まり、意外な縁起かつぎの話、お二人のナチュラルな関係、そして最後に大きな大会に向けての抱負を語っていただきました。
※このインタビューは2021年6月9日に行われたものです。当時のお話をそのまま掲載しています。(2021年10月13日公開、2024年3月30日プロフィール更新)
「あっ、緊張してきたな」と自分の心を冷静に観察
KOSMOST(以下、K):レースに向けての気持ちの整え方など工夫していることはありますか?
梶原悠未(以下、悠未):あまり特別意識していることはないと思います。
ふつうに考えると、日々の練習があって、それから気持ちをオンモードにしてレースに臨むというのが自然な流れだと思うのですが、私の場合、逆なのですね。練習のときの方が集中するし緊張もしている。外の世界を遮断して、自分の世界に没頭しているような感じなのです。それがレース前になると、疲労を抜くために練習も軽めになり、ゆっくり過ごす時間が増えてきます。逆にレース前の期間の方がリラックスしている感じですね。
K:それはレース当日でも同じですか?
悠未:ええ。選手によっては、妙にハイになったり、逆に集中してまわりから近寄れないような空気をつくったりする人もいるようですが、私はなるべく普段どおり、まわりの人たちと雑談などしています。
子どもの頃から競泳で大きな大会を経験してきたこともあって、最近は気持ちを上手にコントロールできるようになったように思います。レース前は緊張もしますが、それを無理に落ち着かせようとするのではなく、「あっ、緊張してきたな」と自分の心の状態を冷静に観察するようにしています。
K:有里さんは、競技場ではどのように悠未さんに接しているのですか?
梶原有里(以下、有里):完全にアスリートとマネージャーという関係ですね。悠未の様子を見て、タイミングよく適切な言葉をかけるようにしています。
K:レースの後はどんな言葉をかけますか?
有里:レースの勝敗に関係なく、いつでも悠未をたたえるような気持ちで受け止めています。レースの内容について細かく言うことはありませんね。常に前向きに、次に何をすべきかを二人で考えるようにしています。
悠未:優勝すると、レースの後はさすがに気持ちが昂ぶってなかなかスイッチが切れないことがあります。レースの前日にはないのですが、終わった日の夜に眠れないことは多いですね。翌日もレースということもあり、眠らないとまずいのですが……。でも、最近は、自分の気持ちにあらがわず、無理に眠ろうとしなくなりました。覚醒した状態のまま次の日のレースも走りきってしまった方が、逆に疲労も感じずによい結果に結びつくことが多いのです。
母がふだんからとてもポジティブなので、私も見習うようにしています(笑)
K:レースに臨むにあたって、体調管理やトレーニング以外で、何か特別に行っていることはありますか?
有里:今年のお正月は、二人で伊豆の神社にお参りに行きましたね。
悠未:あと、いつも練習で走っている近所のコースの沿道に地元の神社があるのです。その前を走るときには必ず、「いつも見守ってくれてありがとうございます!」とお礼を伝えて、叶えたい自分の目標を宣言するようにしています。
K:お話を聞いているととても自然体なのですが、世界トップアスリートとしての悠未さんなりのマインド的な強みは、どこにあると感じていますか?
悠未:あまり意識したことはないですね。あえて言うならば、母がふだんからとてもポジティブなので、私も見習うようにしています(笑)。
有里:私も、もともとはポジティブだったわけではないのです(笑)。ただ経験を積むにしたがって、ネガティブに考えているとネガティブなことばかり起こるということがわかってきましたので。子どもたちには「いま考えていることが将来につながるから、ポジティブでいた方がいい」といつも話しています。
たくさんの子どもたちに夢を届けるアスリートに
K:お話を聞いていて一番印象的なことはお二人の関係です。とても親密で自然体。親と子、アスリートとマネージャーを超えたお二人ならではの絆の強さを感じます。
悠未:そう言っていただけるとうれしいですね。母とはいつも一緒ですが、親子以上の不思議なつながりを感じています。前世でも一緒にいたのかなと思うときがあります(笑)。
有里:前世では、悠未が親で私が子どもだったりして(笑)。
悠未:来世でも一緒にいようねと話しているのです。同じ自転車競技の選手としてタンデム(2人乗り自転車)で一緒にレースなどしていたら楽しいですね(笑)。
K:悠未さんが出場する東京五輪も目前に迫ってきました。最後にお二人の今後の抱負をお聞かせください。
悠未:自転車競技は、日本では競技人口も少なくまだまだマイナーなスポーツ。世界的な大会である五輪は、自転車競技をたくさんの人に知ってもらう絶好のチャンスだと思っています。だからこそ、しっかりと結果を残したい。それが自分にとって一番に成しとげなければならない使命だと考えています。
五輪でメダルをとることは高校時代からの目標です。昨年、自転車のワールドカップで優勝して世界チャンピオンになりましたが、それも五輪に向けてのステップ。私が世界チャンピオンになって五輪に臨めば、さらに自転車競技への注目が高まるだろうと考えていたのです。万全の準備をしてレースに臨みたいと思います。
K:有里さんは、前回のインタビューで、いまの貴重な経験を広く伝えていくような活動をしてみたいとお話していましたね。
有里:あれからもうひとつ、チャレンジしてみたいことが増えました。自閉症などの子どもたちのために、シェアハウスの運営など社会的に支援できる活動に取り組んでみたいと思っています。
悠未:私もたくさんの子どもたちに夢や希望を届けられるアスリートになりたいと思っています。いま勉強していることの目標のひとつでもあるのですが、未来の選手である子どもたちのために自転車競技の教科書もつくってみたいですね。やってみたいことがいっぱいあるのです(笑)。
K:ありがとうございます。KOSMOSTでは、これからもお二人を応援していきます! またお二人そろってお話をおうかがいできる日を楽しみにしています。
(終)
※このインタビューは2021年6月9日に行われたものです。当時のお話をそのまま掲載しています。
【インタビュー連載】
自転車競技世界女王・梶原悠未 トップアスリートのライフスタイル(1)
自転車競技世界女王・梶原悠未 トップアスリートのライフスタイル(2)
自転車競技世界女王・梶原悠未 トップアスリートのライフスタイル(3) (現在の記事)
自転車競技世界女王・梶原悠未 トップアスリートの食卓(1)
自転車競技世界女王・梶原悠未 トップアスリートの食卓(2)
自転車競技世界女王・梶原悠未 トップアスリートの食卓(3)
KOSMOST 編集部(運営:光英科学研究所)は、自転車競技世界女王 梶原悠未さんを応援しています!
梶原 悠未(かじはら ゆうみ) Yumi Kajihara
1997年4月10日生まれ
埼玉県和光市出身
身長155㎝
筑波大学大学院 在籍
[プロフィール]
高校進学と同時に競泳から自転車競技に転向。以来、天性の才能を発揮する。筑波大学へ進学後はエリートカテゴリーに上がり、全日本選手権5連覇、3種目の日本新記録保持、アジア選手権大会4連覇、ワールドカップ日本人史上初の4大会優勝。2020年世界選手権大会では日本人史上初の金メダルを獲得し、世界女王に輝く。2021年は東京五輪・世界選手権・チャンピオンズリーグに出場し、日本だけでなく世界に活動の場を広げ、欧州と日本を拠点にトレーニングを行っている。23年5月の全日本選手権では5種目優勝、6月アジア選手権では4冠を達成。日々、厳しいトレーニングを重ねている。
梶原悠未 公式サイト (yumi-kajihara.com)
梶原 有里(かじはらゆり) Yuri Kajihara
自転車競技で活躍中の梶原悠未選手の母であり、マネージャー。2児の母として子育てに取り組むとともに、長女、悠未さんのサポートを通じてスポーツ・マネジメントを学ぶ。現在は、悠未さんのマネージャーとして、練習のサポート、取材の対応、そして毎日の食事の管理に携わる。スポーツフードマイスター。アスリート栄養食インストラクター等の資格を取得。JADP認定メンタル心理上級カウンセラー。
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