からだのこと
2023.08.05

自転車競技世界女王・梶原悠未 トップアスリートの食卓(1)

梶原悠未選手の練習風景と食事

自転車競技の世界女王である梶原悠未さん。2021年は東京五輪・世界選手権・チャンピオンズリーグに出場し、日本だけでなく世界に活動の場を広げています。欧州と日本を拠点にトレーニングを行っています。23年初頭は怪我に苦しみましたが、5月の全日本選手権では5冠優勝を達成しました。その母であり、マネージャーとして食事の管理などに携わる梶原有里さんのインタビューを3回連続でご紹介します。世界トップアスリートの食生活を支える有里さんのお話には、私たちのからだと「食」の関係を見つめ直すヒントがあちこちに散りばめられています。(2021年4月9日公開、2023年8月5日更新)

 

いまの姿から想像できないほど、内気な子どもでした(笑)

KOSMOST(以下、K):長女である悠未さんは、自転車競技の世界的アスリートであり、東京オリンピックの金メダル候補です。どんな子どもだったのかとても気になります。

梶原有里(以下、有里):悠未は、いまの姿からは想像もできないと思いますけど、すごく内気な子どもだったんです。いつも私にくっついていて、半径1mから絶対に離れないような(笑)。私は、世界に羽ばたくような人に育ってほしいと思っていたので、チャンスをつくってあげようといろいろと習い事をさせていました。

K:そのひとつが水泳だったのですね。

有里:そうですね。スイミングは、0歳から始めました。中学生のときには全国大会の表彰台にまで上がったのですが、どうしてもトップになれなかった。その悔しさから高校進学と同時に自転車競技に転向したのです。

梶原悠未さんの幼少期、水泳シーン

K:悠未さんは、子どもの頃、食生活はどうでしたか? 好き嫌いなどありましたか?

有里:いいえ、まったく。というのも、私は離乳食のときから、野菜をはじめできる限りいろいろな食材を食べさせるように意識していたのです。

K:それはどういう理由からですか?

有里:子どもの頃からいろいろな食材や味覚を経験することは、脳や感覚を刺激して、からだづくりによいと考えていました。それから私自身、若い頃からアトピーでたいへんだったんです。あんなつらい思いは子どもたちにはさせたくないと思い、悠未がお腹にいる頃から添加物を控えるなど食事に気をつかっていましたね。

K:最近、アトピーや花粉症などアレルギーには腸内細菌のバランスが関係しているといったこともいわれています。それを考えると、悠未さんは生まれたときからしっかり「腸活」をしてきたともいえますね。

有里:そうかもしれませんね。食事のことは生まれたときから気をつけていますが、大学生になってからは本格的に管理するようになりました。同時に少しずつ練習もサポートするようになり、悠未が大学の頃から、マネージャーという立場で、食事の管理だけでなく、練習のサポートや取材の対応などに携わっています。

2020年春からは自転車競技場のある伊豆に拠点を移して、悠未と2人で合宿のような生活を送っています。

梶原悠未さんのトレーニング

 

悠未の食事は、1日3食、基本的に私が料理しています

梶原悠未さんの伊豆での練習風景

K:アスリートの世界では専任の食事スタッフがつくことは常識なのでしょうか?

有里:国内の自転車競技選手で、自宅でプロの調理人にお願いしている話はあまり聞かないですね。サッカーや野球のトッププロでは専任の調理人をつけている方もいるようですね。自転車競技では、日本代表のチーム専任の管理栄養士からアドバイスをもらうことはありますが、ふだんの食事は、基本、自分たちでつくったりしている選手が多いと思います。

K:それを考えると、悠未さんはとても恵まれた環境だといえますね。充実した食生活が世界女王のエネルギー源なのでしょうね。

有里:ほかの選手たちは、買物も料理も自分でやらなければならない分、練習時間が削られるなど、いろいろたいへんなようです。練習場で顔をあわせたときなどには、できる範囲で声をかけたり、相談にのったりしています。私も独学で「スポーツフードアドバイザー」の資格を取得していますし。ときにはうちに呼んで、悠未と一緒に食事をすることもあります。
悠未のことはもちろんですけど、私は、自転車競技選手たちの環境づくりに自分のできる範囲で貢献できたらと思っているのです。

 

今日の食事が、明日のからだをつくっている

K:自転車競技は持久力も瞬発力も求められ、ひときわ過酷なスポーツのような印象があります。悠未さんは、ふだんどのような食事をしているのでしょうか?

有里:基本的に野菜が多く、肉などのタンパク質は良質なものを選び、油分は控えるようにしています。

朝は意外に少なくて、一般の方と同じような感覚だと思います。トーストにサラダ、卵料理、それにときどきヨーグルトが加わるくらい。自転車競技の練習は過酷で、胃に負担があるような状態で行うと吐いてしまうことがよくあるのです。

その分、お昼は多めに食べますね。たとえば、野菜たっぷりのおうどんを1.5玉とか。午後の練習の合間に間食もとります。おにぎりなど軽い炭水化物が多いですね。食事としては、3食バランスよく摂取できるように心がけています。

梶原悠未さんの食事

1日に摂取するカロリー量は2,300~2,500くらいを目安にしています。ロードレース前の期間は意識的に炭水化物などを多めにして、それを上回る量になりますね。

K:ふだんのカロリー量で考えると、成人女性の標準より少し多いくらいでしょうか。アスリートの食事は、「量」よりも「質」が大切なようですね。

有里:ええ、そのとおりです。自転車競技は過酷な分、エネルギーの代謝も激しくてからだの循環が速いのです。
今日食べたものが明日の練習に、といったように、食生活の質がダイレクトにからだのコンディションに影響を及ぼします。毎日、悠未を間近で見ているので、それは肌で感じますね。

梶原悠未さんの食事例

K:おそらくそのような食べものとからだの関係は、私たちが鈍感になっているだけであって、アスリートだけでなく、ふつうの人にとっても同じなのでしょうね。

次回からはエピソードなども交えてより具体的な話をお聞きしていきたいと思います。興味深い話題になりそうで楽しみにしています。

次回に続く)

 

【インタビュー連載

自転車競技世界女王・梶原悠未 トップアスリートのライフスタイル(1)
自転車競技世界女王・梶原悠未 トップアスリートのライフスタイル(2)
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自転車競技世界女王・梶原悠未 トップアスリートの食卓(1)(現在の記事) 
自転車競技世界女王・梶原悠未 トップアスリートの食卓(2)
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梶原 悠未(かじはら ゆうみ) Yumi Kajihara

1997年4月10日生まれ笑顔がステキな梶原悠未さん
埼玉県和光市出身
身長155㎝
筑波大学大学院 在籍

[プロフィール]

高校進学と同時に競泳から自転車競技に転向。以来、天性の才能を発揮する。筑波大学へ進学後はエリートカテゴリーに上がり、全日本選手権5連覇、3種目の日本新記録保持、アジア選手権大会4連覇、ワールドカップ日本人史上初の4大会優勝。2020年世界選手権大会では日本人史上初の金メダルを獲得し、世界女王に輝く。

 

梶原 有里(かじはらゆり) Yuri Kajihara

2児の母として子育てに取り組むとともに、長女、悠未さんのサポートを通じてスポーツ・マネジメントを学ぶ。独学でスポーツフードアドバイザーの資格を取得。現在は、悠未さんのマネージャーとして、練習のサポート、取材の対応、そして毎日の食事の管理に携わる。

梶原悠未さん、梶原有里さん


【梶原有里 コラム バックナンバー】
[梶原有里、世界への窓 第1回]  銀メダルからの挑戦 
[梶原有里、世界への窓 第2回]  マネージャーとして母として“食の大切さ”を思う日々 
[梶原有里、世界への窓 第3回]  世界的アスリートの子育てポイントは「体験」と「興味」
[梶原有里、世界への窓 第4回]  世界的アスリートを育てた食事法 
[梶原有里、世界への窓 第5回]  世界的アスリートが実践する海外遠征時の食事法
[梶原有里、世界への窓 第6回]  オリンピックを決めた「ある一言」とひとつの挫折 
[梶原有里、世界への窓 第7回]  高校入学を機に水泳から自転車へ転身、オリンピック金メダルを目指す
[梶原有里、世界への窓 第8回] 脳のトレーニングでオリンピック・レベルの精神力を鍛える 
[梶原有里、世界への窓 第9回] 「笑顔」で晴れの舞台へ、オリンピック当日までの過ごし方
[梶原有里、世界への窓 第10回] オリンピック銀メダルからの新たな挑戦

 

【梶原有里 イベント・レポート】
自転車アスリートの食事を梶原有里さんに学ぶ ~KOSMOST発酵ダイアログJANレポート

 

 

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KOSMOST 編集部

KOSMOST 編集部

KOSMOST編集部。2020年10月22日に創刊。おいしいこと、からだのこと、うつくしきこと、微生物のこと、おなかのこと、せかいのことをめぐる情報をつうじて、みなさまがウェルネス豊かなライフスタイルをおくれますように! -------- Q. ウェルネスのために心がけていることは? → A.いろいろな方々との発酵ダイアログから、新しいアイディアをうみだすこと! 🦠 KOSMOST編集部の記事一覧

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