乳酸菌やビフィズス菌はどのような働きによって「善玉菌」と呼ばれているのでしょうか? そればかりでなく、私たちの腸の中では多様な細菌たちが大活躍。花粉症、糖尿病、うつ病、免疫力アップから、ほっとしたときに感じる幸福感まで……。からだと腸内細菌の驚きの関係が次々と明らかになっています。
ダイエットが上手くいかないのは腸内細菌のせい?
前回のコラムで、私たちの腸には100兆もの細菌がすんでいるという話をしました。では、なぜ人間は、それほどたくさんの細菌をからだの中で育てているのでしょうか。その関係にはよく「共生」という言葉が使われます。人間は細菌たちに快適なすみかを提供し、そのかわり細菌たちは人間にとって有用な成分などを生産しているのです。つまり、パートナー関係というわけですね。
いわゆる「善玉菌」といわれる乳酸菌やビフィズス菌は、腸に送られてくる栄養分を餌にして、乳酸菌をはじめとする多様な成分を生み出します。これらの働きにより、腸内環境を酸性にして腐敗を抑えたり、腸の動きを整えたりしています。
これら腸内細菌たちがつくり出す成分で、注目を集めているもののひとつに「短鎖脂肪酸(たんさしぼうさん)」があります。ビフィズス菌も、「短鎖脂肪酸」の1種である酢酸(さくさん)をつくっています。
この「短鎖脂肪酸」は、肥満や糖尿病の予防に関わっているという研究があります。また、「短鎖脂肪酸」は腸壁を守る細胞のエネルギー源にもなっています。これらの細胞の働きが弱ると腸内の毒素が血液中に漏れ、糖尿病や動脈硬化、がんなどの引き金になるといわれます。
多様な腸内細菌を育てて免疫力アップ
病原菌やウイルスなどの外敵から私たちを守ってくれる免疫細胞。この免疫細胞の約7割は腸に集結しています。そして最近の研究によって、この免疫力にも腸内細菌が関わっていることが明らかになってきました。
免疫力は高めるばかりでなく、そのバランスを保つことが大切です。免疫が暴走すると、花粉症やアトピー性皮膚炎といったアレルギー、リウマチなどの自己免疫疾患などを引き起こします。この暴走をなだめる働きに腸内細菌が関わっているというのです。
また、がんもこの免疫に深く関わる病気です。今後さらに研究が進めば、腸内細菌から発想したがん予防や治療法が見つかるかもしれませんね。
腸内細菌は、私たちの脳とも会話をしている!?
驚くことに、腸内細菌は私たちの脳とも親密な関係にあるようです。腸は「第二の脳」といわれるように、脳と同じようにたくさんの神経細胞をもっています。それらは「迷走神経」という回路によってダイレクトに脳とつながっています。
そして、腸内細菌には、この腸の神経細胞を刺激する力があるのです。つまり、これらの回路を利用して、腸内細菌は脳となんらかの会話をしているのかもしれないのです。
実際、うつ病や自閉症など精神的な病気にも腸内細菌が関係しているという研究結果があります。そればかりか、私たちの性格にも腸内細菌が関係している可能性もあります。マウスを使った実験によると、腸内細菌を入れ替えることによって、臆病な性格のマウスの行動が大胆になったそうです。
セロトニンは、心をリラックスさせ幸せを感じやすくする脳内物質で、別名「しあわせホルモン」とも呼ばれています。このセロトニンは約90%が腸でつくられます。ここまで書けば、だいたいの人は何を伝えたいかわかるでしょう。そう、セロトニンの生産にも、腸内細菌がひと役かっているらしいのです。
花粉症から糖尿病、うつ病……。そしてリラックスしたときに感じる幸福感まで。今後さらに研究が進めば、私たちのからだと細菌たちの驚くべき関係が次々と明らかになってくるはずです。次回は、これら腸内細菌たちと上手に付きあっていくための方法を紹介しましょう。
【「“新”乳酸菌生活のススメ ─知って、食べて、育てる」 シリーズ】
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② 発酵界のプリンセス!?乳酸菌のおいしい働き
③ 腸にも、口の中にも!?私たちのからだと乳酸菌
④ 健康も、しあわせも?からだと細菌の驚くべき関係 (現在の記事)
⑤ 腸内細菌との上手な付き合い方 〜
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