微生物のこと
2021.03.26

パンダやコアラも、微生物と動物たちの知られざる関係

コアラ・ユーカリ

前回のペットに続いて、今回も動物たちの腸内フローラについてのお話です。牛はなぜ、草だけを食べて大きなからだを維持できるのか? パンダが笹や竹を、コアラがユーカリの葉を大好物にしている理由は? そこには、私たちの腸内環境にも共通する、微生物たちとの特別な関係があるのです。

牛のおなかには巨大な発酵タンクが隠されている

牛は、人間が食べることのできない草を食べてあの大きなからだを維持しています。エネルギー源になっているのは、草に含まれるセルロースという植物繊維などを中心とした炭水化物です。人間などの動物はこのセルロースを5%ほどしか消化できません。ところが、牛は80%も消化することができるといわれます。

牛は、4つもの胃を持つ反芻動物の仲間です。この反芻(はんすう)とは、飲みこんだ食物を再び口中に戻して、よくかんでまた飲み込むこと。牛がいつも口をもぐもぐさせているのは反芻をしているからなのですね。

牛の驚くべき消化能力は、こういった仕組みによるものと思われがちですが、じつは隠された秘密がもうひとつあります。それが微生物たちの存在なのです。

牛の第1の胃は、胴体の大部分を占めるほど大きく、そこには細菌をはじめ大量の微生物がすんでいます。この第1胃は、さながら発酵タンクのような存在。微生物たちはセルロースをせっせと分解・発酵して栄養分を生みだすとともに、自分たちも増殖します。

こうしてつくられた栄養分は、第2・第3の胃を経て、第4胃で消化・吸収されます。しかし、そればかりではありません。第1胃で増殖された微生物も、第4胃でタンパク質として消化・吸収されるのです。つまり、微生物たちはダブルの働きで栄養をもたらし、牛の大きなからだを支えているわけなのです。

私たちがおいしい肉やミルクを味わえるのも微生物のおかげともいえますね。

牛・草:植物繊維

パンダとコアラと人間に共通するものは?

動物園の人気者、パンダの主食は笹や竹です。あの大きなからだでむしゃむしゃと笹の葉を食べる様子はユーモラスで、子どもたちも大喜びします。けれどもよく考えてみると、笹は、牛が食べる草以上に消化も悪く栄養もなさそうですよね。じつはパンダのからだの中でも微生物たちが大活躍しているのです。

そもそもは肉食動物の仲間であるパンダは、牛のような複雑な消化器官を持っていません。そのかわりを果たしているのが、腸にすむ微生物たち。笹や竹の食物繊維を一生懸命分解・発酵して消化を助けているのです。

もうひとつ動物園の人気者を紹介しましょう。コアラの大好物は、ユーカリという木の葉です。しかし、ユーカリの葉には消化を妨げるタンニンが大量の含まれるため、ほとんどの動物は食べられません。

では、コアラはなぜ大丈夫なのでしょうか? 研究の結果、コアラの腸内にはこのタンニンを分解できるロンピネラ菌という特別な細菌がすんでいることがわかりました。

このような微生物たちとの特別な関係は、私たち人間でも同じです。

日本人の腸内には、海草の消化が得意な特別な細菌、バクテロイデス・プレビウスが存在するそうです。海に囲まれた島国という自然環境のなか、長い年月をかけて培ってきた微生物とのパートナーシップなのでしょう。

そう考えると、納豆や漬物といった発酵食品、さらには和食など、それぞれの国や地域に根づいた伝統的な食文化は、私たちの腸内フローラに密接に関わっていることに気づくはずです。

動物たちの食生活を知ることは、私たちのふだんの食生活を改めて考えるよい機会になります。私たち人間もまた、地球の動物です。この地球上の動物たちは、まわりの自然や食べものといった環境にあわせて、微生物とともに進化をとげてきたのだと思います。

パンダ・笹・竹・食べる

 

参考文献・サイト
『腸内フローラ10の真実』(NHKスペシャル取材班, 主婦と生活社)
『あなたの体は9割が細菌』(アランナ・コリン, 河出書房新社)
https://www.meg-snow.com/fun/academy/trivia/trivia_030.html(雪印メグミルク)

 

 

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片倉 さとし

片倉 さとし

コピーライターの本業の傍ら、ときどき“いきものライター”として魚をはじめ生物系の記事や書籍を書いています。免疫力を高めると言い訳して、週末はサーファーとして毎週海へ。KOSMOSTにかかわるようになって微生物の本を読みあさり、最近、毎朝スムージーを飲むようになりました。 -------- Q. 「微生物とともに生きるライフスタイル」で大切にしていることは? → A. 酒場で迷ったときは、蒸留酒よりも醸造酒を選ぶこと。 Q. ウェルネスのために心がけていることは? → A. サーフィン。あまり熱心ではないヨガ。 ------- 🦠 片倉さとしの記事一覧

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