KOSMOST 編集部が読んだ“おすすめ本”ライブラリー。
微生物が愛らしくなる本を紹介します。
ライブラリー 012
『腸を鍛えるー腸内細菌と腸内フローラ』
光岡知足 著, 祥伝社新書, 2015年10月2日
生命活動の基盤である腸の役割を学べる一冊
腸内細菌学の第一人者である、光岡知足氏が逝去されたのは2020年末でした。90歳まで長生きされ、晩年にも記念講演を行うなど腸内細菌学の発展に貢献しました。関わった書物数は大学図書館のデータベースによると70冊を超えています。その中でも、生前の光岡氏が最後に著したのが本書です。この晩年の1冊には、最近の腸内細菌学事情からウェルネスに関わる腸内細菌との向き合い方までわかりやすく記されています。腸の役割を学ぶために最適です。
「善玉菌」と「悪玉菌」の由来とは?
腸内フローラを形成する「善玉菌」や「悪玉菌」は耳慣れた言葉ですが、この言葉を最初に使ったのは光岡氏だそうです。研究者が腸内細菌を表現する際、菌の呼び方は学問的分類(形状など)に由来しています。球菌や桿菌などと聞いても、生活者の私たちには難しく感じてしまいます。そこをあえて、学者である光岡氏が学問的分類ではなく、生活者に寄り添って、腸内細菌が人の健康にどのように寄与するかという観点で名付けたのが「善玉菌」「悪玉菌」なのです。その理由も詳しく記されています。
「生きた菌」と「死んだ菌」共に役割がある!?
「生きた菌をからだの中に届ける」ことが大切だというメッセージを聞いたことはありませんか?
私もそう信じていました。ところが、ところがです。光岡氏の研究によると生きた菌だけでなく殺菌された死んだ菌にも役割があり、免疫に寄与しているというのです。
驚かれるかもしれませんが、「生きた菌」より「エサ」を摂取したほうが、腸内フローラの改善はスムーズに進むのです。
腸内に生きた菌を届けることだけに注力するのではなく、腸内細菌のエサに着目することが大切だと、本書を通して気づくことができます。
腸内細菌学を通して形づくられた「生きる哲学」
いずれにせよ、地球の総人口を上回る数の腸内細菌が、一人ひとりのお腹の中に共生しているのです。
膨大な数の腸内細菌と私たち一人ひとりの体の関わりを学ぶには多様な視点が必要です。腸内細菌とは? その活動は? 腸と脳との関係? 大腸と小腸の役割? 腸内細菌におススメの食事は? などなど知りたいトピックを生活者の私たちにわかりやすい言葉で、学問的に体系的にコンパクトにまとまっているのが本書です。
本書が腸を元気にし、目に見えない生きものたちとのつながりを知る一助になれば、これ以上の喜びはありません。
読者の期待を裏切ることなく、想像以上に微生物とのつながりを知るきっかけをもたらしてくれる1冊です。
*2021年10月にサンクチュアリ出版から『共生の法則』(光岡知足著)が発行されています。
【微生物とよく暮らすKOSMOSTライブラリー:バックナンバー】
001:『見えない巨人―微生物』
002:『細菌ホテル』
003:『マイクロバイオームの世界――あなたの中と表面と周りにいる何兆もの微生物たち』
004:『微生物のサバイバル1・2』
005:『日本発酵紀行』
006:『腸と脳──体内の会話はいかにあなたの気分や選択や健康を左右するか』
007:『あなたの体は9割が細菌 微生物の生態系が崩れはじめた』
008:『ととのう発酵』ディスカバー・ジャパン2021年7月号
009:『もやしもん』
010:『最終結論「発酵食品」の奇跡』
011:『世界一やさしい!微生物図鑑』
012:『腸を鍛える―腸内細菌と腸内フローラ』 (現在の記事)
013:『図解でよくわかる 土壌微生物のきほん: 土の中のしくみから、土づくり、家庭菜園での利用法まで』
014:『土と内臓―微生物がつくる世界』
015:『ノーマの発酵ガイド』
016:『生物と無生物のあいだ』
017:『発酵の技法 ─世界の発酵食品と発酵文化の探求』
018:『人体常在菌のはなし ── 美人は菌でつくられる』
019:『生物から見た世界』
020:『麹本: KOJI for LIFE』