KOSMOST 編集部が読んだ“おすすめ本”ライブラリー。
微生物が愛らしくなる本を紹介します。
ライブラリー 006
『腸と脳──体内の会話はいかにあなたの気分や選択や健康を左右するか』
エムラン・メイヤー (著), 高橋 洋 (翻訳), 紀伊國屋書店, 2018年6月28日
からだの中での“対話”
著者であるエムラン・メイヤーさんは、脳とからだの相互作用、特に脳と腸のつながりを40年にわたって研究し続けている医師です。
表紙の半分を占めるほど大きく迫力のある“腸と脳”の文字は、メイヤーさんの思いとメッセージを、強烈に、わたしたちに伝えているようです。
そして、残りの左半分のスペースは、おそらく大腸をモチーフにしたのでしょう。上から下へ、くねくねとした曲線が描かれています。よくみると、文字が連なっています。
体内の会話は、いかにあなたの気分や選択や健康を左右するか
大腸をいとおしむように、本を右に左にと動かしながら曲線を読みあげたわたしですが、「会話」という表現に、最初は戸惑いを隠せませんでした。
人間の体には臓器があり、それぞれの働きがあって、心臓が全身に血液を送るポンプになっていたり、肝臓が栄養の貯蔵や有害物質の解毒をしていたり、役割分担をしています。おなじく脳と腸にも、それぞれの役割があります。腸については、食べ物を消化吸収する場であると同時に、腸内細菌の生息地でもあります。マイクロバイオータ(腸内フローラ)は、わたしたちの健康を支えている存在です。
でも、あたまとおなか、離れた臓器同士が「会話」するイメージは、この本を開くまで想像もできませんでした。
これまで私たちは、全般的な健康の維持という点になると、消化管(消火器系)と脳(神経系)という、人体が備える二つの重要な系(システム)を無視してきた
数年前ならSFのごとく聞こえただろうが、最新の科学は、腸と腸内微生物と脳が、共通の生物言語を用いて対話していることを明らかにしつつある
ページをめくるたび、メイヤーさんが積み重ねてきた研究のこと、原因不明の胃腸症状で駆け込んできた患者への治療実例、また、腸内環境がもたらす神経症状についての解説など、たくさんの情報が目に飛び込んできます。
わたしは新たな世界を探検するように、ドキドキと読みすすめました。腸と脳はそれぞれで独立して動いているのではなく、連絡を取りながら動いているのです。
コミュニケーションをとりもつ微生物
また、この本では、腸と脳のコミュニケーションにとどまらず、腸が脳に送りかえすシグナルを生む腸内微生物のはたらきについても描かれていました。腸と脳の会話は、それを媒介している微生物の存在があってこそ成り立っている、という事実に、ワクワクしました。
そして、ドキドキ・ワクワクして読み終わって、本をとじたとき、ふと、我にかえりました。これは、わたしたちのからだの中だけの話ではないな、と。
からだの中で、腸と脳の会話が繰り広げられるように、わたしたちのからだの外、たとえば家族や、職場や、地域での暮らしについても、同じように、対話をしたり、意思疎通をしながら連動したりすることが大切だと感じました。
そして、そのあいだを媒介する微生物のような存在を、忘れてはならないように思います。
からだの中の会話に耳をかたむけながら、はたして、自分はからだの外のことも大切にしているかしら、と。本を閉じた後、あらためて思いを深くしたのでした。
【微生物とよく暮らすKOSMOSTライブラリー:バックナンバー】
001:『見えない巨人―微生物』
002:『細菌ホテル』
003:『マイクロバイオームの世界――あなたの中と表面と周りにいる何兆もの微生物たち』
004:『微生物のサバイバル1・2』
005:『日本発酵紀行』
006:『腸と脳──体内の会話はいかにあなたの気分や選択や健康を左右するか』 (現在の記事)
007:『あなたの体は9割が細菌 微生物の生態系が崩れはじめた』
008:『ととのう発酵』ディスカバー・ジャパン2021年7月号
009:『もやしもん』
010:『最終結論「発酵食品」の奇跡』
011:『世界一やさしい!微生物図鑑』
012:『腸を鍛える―腸内細菌と腸内フローラ』
013:『図解でよくわかる 土壌微生物のきほん: 土の中のしくみから、土づくり、家庭菜園での利用法まで』
014:『土と内臓―微生物がつくる世界』
015:『ノーマの発酵ガイド』
016:『生物と無生物のあいだ』
017:『発酵の技法 ─世界の発酵食品と発酵文化の探求』
018:『人体常在菌のはなし ── 美人は菌でつくられる』
019:『生物から見た世界』
020:『麹本: KOJI for LIFE』