「旅・写真・ごはん」をテーマに、世界中を旅する「旅行家・写真家・食事家」、石黒アツシさんが綴る今回のコラムはキューバの2話目です。ヘミングウェイがこよなく愛したカクテルと、小さなグゥバの実が入った特別なラム酒。南国によく似合うラムの風味がいまにも香ってきそうです。
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カリブ海に浮かぶ社会主義国家
キューバは1959年のキューバ革命で、民主主義国から社会主義国になりました。それまでのアメリカ人による投資が接収され、それに対してアメリカ政府は経済制裁を課したりとすっかり冷え切った関係が続きました。その後、バラク・オバマ氏が大統領として関係改善を進めて、国交を回復したのは2015年。54年も経っていました。
私がキューバを旅した2016年には、アメリカ国内からキューバへの旅客機の乗り入れも再開されていて、多くのアメリカ人観光客がハバナの街を歩いていました。でも、その年にドナルド・トランプが大統領になると、渡航規制や商取引の規制といった経済制裁を導入して、せっかくの友好関係に冷や水がかけられることに。とはいえ、ジョー・バイデン大統領の下、前向きに関係改善が進んでほしいと思います。
ヘミングウェイが通ったバーでダイキリを
作家のアーネスト・ヘミングウェイが通ったという、ハバナの旧市街にあるバー「フロリディータ」に出かけました。ピンク色の外装と金色のエンブレムが、ちょっと享楽的な雰囲気を醸し出しています。外にまで多くの観光客が集まって、列ができていました。
ヘミングウェイはアメリカ人ですから、ここに通ったのは革命前ということになります。彼が好きだったという、長いカウンターの一番奥の席には、彼の銅像が座っていました。冒頭の写真は「エル・フロリディータ」という店名を冠したカクテル「ダイキリ」の一種。またの名は「ヘミングウェイ・ ダイキリ」だそうです。
ラム酒にフレッシュなライムジュース、サクランボのリキュールを加えてつくるすっきりとした味わいのダイキリは、南国の空気によく合います。アルコール度数が40度から高いものだと75度とかなり強いラム酒は、カリブ海の国々で生産されている蒸留酒で、もちろんキューバでも作られています。「ハバナクラブ」というブランドが頭に浮かぶ方も多いのではないでしょうか。
独特な製法でつくるラム酒の蒸留所を訪問しました
ハバナから西へ200㎞ほどに位置するピナール・デル・リオという街にあるラム酒のびん詰工場、「グァヤビータ・デル・ピナール・ラム・ファクトリー」を訪れました。
ラム酒はサトウキビを絞ったジュースを加熱して濃縮し、砂糖と糖蜜にわけて、糖蜜のほうを発酵させ、蒸留機でアルコールを気化させてつくるそうです。発酵にかける時間は2〜3日ですが、蒸留してから最低でも2年間は樽に入れて熟成させます。樽が並ぶ倉庫は静かで、でもその中で熟成がゆっくり進んでいるんですね。
びん詰は半機械化されていて、人が1本ずつ丁寧にラム酒を注ぎ、キャップがつけられていきます。
そしてみんなでラベル張り。なんとものんびりした作業です。このラムの商品名は「La Occidental Guayabita del Pinar」(ラ・オクシデンタル・グァヤビータ・デル・ピナール)。Occidentalは西洋、Guayabitaは小さな実のグァバの一種だそう。
これが、その実です。この特別なラムの名称は1906年に登録されたそうです。各ボトルには、実が2つか3つ入っていました。原材料のサトウキビとミックスして作られたこのラム酒は、とっても甘くてフルーティ。そして、豆のナッツのような香りがしました。
モヒートもラムがベースのカクテルです
そうそう、日本でも人気がある「モヒート」もラムがベースのカクテルですよね。ハバナ生まれのモヒートは、ミントの葉、ライム、お砂糖、ラム、炭酸水で、氷を入れたグラスで飲みますが、これもまたすっきりとした飲み心地。この夏、自宅でラムを楽しむのもいいかもしれません。
[All photos by Atsushi Ishiguro]