うつくしきこと
2021.12.27

藍が織りなす”発酵”いろいろ ~土と微生物と、めぐる藍~ 神田藍日記12月

藍・発酵・藍染・神田藍愛

「微生物」は、古くから暮らしに関わり深いパートナーです。実は、伝統的な染色である「藍」にも関係しています。その「藍」を、東京神田のビル街で育て、子供たちと染色するなど学び楽しむプロジェクトがはじまっています。今回は、プロジェクトを推進する一般社団法人「遊心」代表理事の峯岸由美子さんによるフォト日記の6回目。 藍を育てる「土」と「微生物」に着目しました。

 

【2021年12月某日】

今年、神田の街で育った藍たちは、タネの生育がゆっくりのようでした。先頃、やっとタネ取りができそうなところまできました。今回は、じっくりと時間をかけて神田藍を育んできた「土」の働きに目を向けてみたいと思います。

自然界では、太陽や水によって成長した植物を動物が食べ、その動物が死ぬと、死骸や糞は生物や微生物に分解されて土に還り、また植物の栄養になります。

以前、子どもたちと活動していた栃木の山には、シカが多くいました。森の中でその死骸を発見することもありました。死んだシカの体の一部は他の動物に食べられ、徐々に腐り、どんどん小さくなっていき、最後に真っ白な角と骨が残ります。驚くべきことに、骨周りの肉はとてもきれいに「掃除」されていました。このように、動物の死骸や糞などがいつの間にかなくなり、落ち葉が土に還っていくのには、微生物が大きく影響しているのです。

土・微生物・畑・土壌微生物

 

たとえば、よい畑の土には、1g 当たり1億以上もの微生物がいるといわれています。

1平方メートルの表土(深さ1.5mm)に、重さにして700g 、数にして100 兆以上もの土壌生物がいます。そのうち95% を「土壌微生物」がしめていて、内訳は 70〜75%がカビ、20〜25% が細菌や放線菌です。残りの5% が「土壌生物」といわれていて、これにはミミズやダンゴムシなどが含まれます。(※1) これらの土壌微生物や土壌生物が、「分解者」になって、循環の一翼を担っています。

 

植物が育つには「水」と「太陽」と「栄養」が必要ですね。

太陽は太陽エネルギー、水は雨や水やりで対応します。栄養は、主に、チッ素、リン酸、カリウムやマグネシウムなどの微量要素と呼ばれるものが必要になります。チッ素は葉や茎に、リン酸は花や実に、カリウムは根に栄養を与えます。植物は根っこからこれらの栄養素や水や酸素を取りいれて大きくなります。

 

この時、土の中で、土壌生物と土壌微生物がお互いに共生しているのです。彼らは、動植物の死骸や排せつ物などの土壌有機物を摂取して生きていますが、土壌生物が細かくしたり摂取したりした有機物からの糞を土壌微生物が利用します。また土壌生物の腸内に微生物がすんでいて、そこでも分解をしているとも言われています。

ところで、「土がフカフカだね」という状態は、一般的には団粒構造が起こっている状態です。

団粒構造というのは、土壌生物、土壌微生物によって分解された土壌有機物や、その他いろいろなものが、微生物などの分泌物と結合されて塊となった状態のことです。また生物の糞などもその役割を果たすこともあるため、例えばミミズが多いと土がフカフカになるよ、というのは、ミミズが有機物を食べ、同時に微生物で分解されて、栄養たっぷりの糞が塊になってでてくることにもよります。

分解者である微生物がいないと、地面は生き物の死骸や落ち葉でいっぱいになってしまいますし、植物は栄養をしっかりと取れず、育ちにくくなっていきます。植物が育たなければ、それを食べる虫や小動物が生きられず、虫や小動物がいなくなれば……。というように、生命の循環に「微生物」の存在は大切なのですよね。

土・微生物・落ち葉

 

ちなみに、藍は「肥料食い」と言われています。つまり、育てるのに肥沃な土壌と大量の肥料が必要な植物だということです。

例えば、藍染めのメッカである阿波では、阿波国藍作法といって、吉野川の氾濫による肥沃な土地に、ニシンカスなどのいわゆる金肥と言われる栄養の高い肥料を使って土づくりをしていたそうです。そのため江戸時代から、藍は阿波(現徳島県)のものが優れていると言われていました。埼玉地域の武州藍も同様に、肥沃な利根川の中瀬河岸を利用しています。

 

神田藍の会・藍

 

神田藍の会・藍神田藍はといえば、都会の街のなか、小さなポットやプランターで育っています。藍にとっては厳しい環境かもしれません。でも神田藍プロジェクトに参加するメンバーたちは、今年、藍を大切に大切に育ててきました。きちんと土の状態を観察して、根が栄養と水を取りやすくして、藍が育つ土を育んできました。こうすることで、小さなプランターの中に「小さな生命の循環」ができあがっています。私たちはその微生物に触れ、微生物の役割から学ぶことができそうです。

藍1株が育つためには、数億の微生物が不可欠であるように、私たち一人一人は小さくとも街に欠かせない存在であるのだと思います。そして街の中で、皆が役割を担っている事を感じて、これからも微生物と藍とともに、神田の街を盛りあげていきたいと思っています。将来、神田のなかで点と点であった藍が「線」になり、「面」になり、神田が日本各地の藍産地の方々との結び目にもなっていけたら、さらに面白くなりそうです。もともと神田には紺屋町があり、問屋街でしたから。

土・微生物・畑・土壌微生物

 

神田藍プロジェクトのこの先は、冬の作業として、タネもみが始まります。新しい循環をはじめる準備です。そして、来年春から、「神田藍プロジェクト2022」 が、再びはじまります。またお会いしましょう。

 

執筆:神田藍の会
一般社団法人遊心 峯岸由美子 

神田藍の会ウェブサイト 
神田藍の会Facebook 

ご一緒に「神田藍」を育ててみたい方がいらっしゃれば、どうぞお問い合わせください。

 

参考文献
『NHK趣味の園芸 やさいの時間』2019年4・5月号
『図解でよくわかる 土壌微生物のきほん: 土の中のしくみから、土づくり、家庭菜園での利用法まで』 横山 和成 (監修), 誠文堂新光社

 

【藍が織りなす発酵いろいろ 神田藍日記シリーズ バックナンバー】
0藍が育む「自然と人間と地域の発酵関係」とは? ~神田藍プロジェクト
1
神田藍日記7月 ~人と自然と~ 
2
神田藍日記8月 ~植物と街の記憶~
3: 神田藍日記9月 ~自然界のグラデーション~ 
4:神田藍日記10月 ~育まれる藍と街~
5:神田藍日記11月 ~育つ場ごとに多様な花色へ~
6:神田藍日記12月 ~土と微生物と、めぐる藍~ (現在の記事)

 

【うつくしきこと:「ジャパンブルー・藍」シリーズ】
日本の美と微生物 1 「ジャパン・ブルー 藍のはじまり」
日本の美と微生物 2 自然と人と、藍のうつくしさ

 

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峯岸 由美子

峯岸 由美子

30年にわたり、都会で暮らす家族のための自然体験活動を主宰。身近な自然に気づくことで、地球全体を意識して過ごすこと、ヒトは自然の一部だと体感することを大切に。ここ数年、畑での活動から「土壌」と動植物との協働に再注目中。肥沃で微生物が活発な「土」からはよい作物が育つのを、子どもたちと目の当たりにしている。水や空気や太陽と、微生物を土台とした多様な生き物を体全体で感じながら、楽しく、ゆったりと心豊かな日常を! (一般社団法人遊心 代表理事 https://yushin.or.jp/) -------- Q.「微生物とともに生きるライフスタイル」で大切にしていることは?  → A.畑では土づくりに時間をかけて。納豆や味噌など身近な「日常生活」を丁寧にすごすように。 🦠 峯岸由美子の記事一覧

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