KOSMOSTでは、2021年の春分の日に「オンライン味噌づくりワークショップ」を開催しました。編集部の“はっこうちゃん。”が監修し、厳選して良質な材料をそろえました。多くの参加者を交えて、和気あいあいと学びながら、味噌を仕込みました。
季節は夏を終え、そして秋分の日を乗り越え、微生物たちの手しごとのおかげで、秋には味噌が完成。おいしい味噌がやっとできました。そこで、春に味噌づくりに参加したメンバーの皆さんと、手前味噌のお披露目会をオンラインで開催しました。同じ素材・同じ日に仕込んだ味噌なのですが、色も味わいも、それぞれの出来栄えになっていることがわかりました。
味噌は、麹菌・乳酸菌・酵母菌たちの協働作品といえるものです。主な働きとして、麹菌が大豆のたんぱく質をアミノ酸へ分解して脂肪を脂肪酸にし、また米や麦のでんぶんをブドウ糖へ分解します。酵母菌が、分解された大豆のアミノ酸をエタノールにします。たんぱく質が味噌のうまみに、脂肪酸が香りに、ブドウ糖が甘みに寄与しています。このように、微生物たちの「発酵」という手しごとが、ヒトの健康に関わっています。
そこで今日は、味噌の成分に着目して、「味噌の効用」についてまとめてみようと思います。
味噌の効用1:血中のコレストロールや中性脂肪
大豆をゆでてすりつぶすと味噌の元ができます。この大豆のたんぱく質の主要成分は「グリシニン」と「β-コングリニシン」です。なんだか難しい名称ですが、「グリシニン」は、血中のコレストロールを低下させる作用があります。そして、β-コングリニシンには、血中の中性脂肪を低下させる作用があるといわれます。味噌を発酵させる過程で、微生物たちが成分を分解し、からだに吸収しやすくしてくれます。
味噌の効用2:胃腸
原材料である麹の麹菌は、発酵過程でたくさんの酵素をつくります。微生物は発酵すると、いろいろな成分を代謝します。味噌にはたとえば、「アミラーゼ」、「リパーゼ」など、約30種類の酵素が含まれています。中でも、「リパーゼ」には、脂質の消化を促して消化吸収を助ける働きがありますから、味噌は胃腸を労わってくれるとも言えますね。消化が悪い時、胃腸の調子がすぐれないときにも、味噌が活躍してくれます。
ただ、酵素は70℃で死滅してしまいます。酵母菌も60℃で死滅します。ですから、味噌汁をつくるなら、火を止めてから最後に味噌を入れると、効果が保たれるようです。
味噌の効用3:脂肪肝・認知症
大豆レシチンには「コリン」が多く含まれています。この「コリン」は肝臓の脂質代謝を助け、脂肪肝を予防してくれます。また、レシチンの成分であるコリンは、体内で分解されて「アセチルコリン」になります。つまり、レシチンが不足すると、脳の刺激や興奮の大事な成分である神経伝達物質アセチルコリンが減少してしまいます。アルツハイマー型認知症の方は、アセチルコリンの合成が低下しているといわれています。味噌を食べることで、アセチルコリンの合成を低下させないようにしたいものですね。
味噌の効用4:糖尿病
アミノ酸・ペプチド・タンパク質などが糖と結合することで、「メラノイジン」をつくりだします。このメラノイジンの機能としては、芳ばしいフレーバーと茶褐色の色合いを生み出すことがあげられます。味噌は長時間の加工工程のなかで、メラノイジンをつくり出しているのですね。このメラノイジンは、血糖値の上昇を抑えたり、インスリンの分泌を増やしたりする働きがあるので、糖尿病の予防にもその効果が期待されています。
味噌の効用5:腸内環境
先ほど登場した「メラノイジン」ですが、これは腸内で乳酸菌の増殖を促し、悪玉菌である嫌気性菌の増殖を抑える働きもあるそうです。また、味噌にはオリゴ糖が含まれています。大腸にいるビフィズス菌は、有害菌を抑える働きがありますが、ビフィズス菌が栄養源にしているのがオリゴ糖です。私たちは年齢を重ねるごとにビフィズス菌が減少しますので、味噌からオリゴ糖を摂って、腸内のビフィズス菌に届かせたいものです。味噌からメラノイジンやオリゴ糖をとることで、腸内環境の改善効果が期待されます。
参考情報:https://ci.nii.ac.jp/naid/130004306722
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan1988/97/4/97_4_253/_pdf
味噌の効用6:血中のコレステロール値や血圧
味噌に含まれている脂質は、大半が不飽和脂肪酸で、これは血中のコレステロール値を下げることが定説となっています。大豆に含まれる脂質は、「リノール酸」や「リノレン酸」が多く、これらは体内では合成できないので、食物から摂りいれなければならないもの。味噌を食べれば、味噌に含まれるレシチンやビタミンEやイソフラボンも一緒に摂れるので、より効果的に働くそうです。また、リノール酸は、心臓や脳髄中の毛細血管を丈夫にする働きがあることがわかっているそうです。
味噌の効用7:美肌
味噌の発酵過程では、微生物たちが働いてリノール酸を分解し、「遊離リノール酸」をつくりだしています。この遊離リノール酸は、肌のシミの基となるメラニン色素の合成を抑制する働きをします。そして、シミの原因となるチロシナーゼ酵素の生成を抑制するといわれています。これが、味噌に美肌効果があるといわれるゆえんです。
味噌の効用8:乳がん
大豆には「イソフラボン」が含まれています。この「イソフラボン」についておもしろい研究結果があります。40〜59歳の女性約2万人の方々を10年間追跡した調査結果にもとづいて、大豆製品の摂取量、それから計算されるイソフラボンの摂取量と女性乳がん発生率との関係を調べたそうです。その結果、「味噌汁」を頻繁に摂取した中高年女性では、乳がんの発症率の低減がみられるというのです。上手に日々のメニューに、味噌汁を取り入れたくなりますね。
参考情報:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12813174/
https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/258.html
味噌の効用9:更年期・骨粗しょう症
味噌に含まれる「大豆イソフラボン」は、化学構造が女性ホルモン(「エストロゲン」)と似ているそうです。そのため、種々の作用を発揮することが知られています。たとえば、更年期はエストロゲンの分泌が不足することで起こるといわれます。大豆イソフラボンをとることで不足した成分を保管でき、更年期を楽にすごせる可能性があるといわれています。また、エストロゲンは、骨からのカルシウム流出を抑える成分でもあります。味噌をとることは、骨粗しょう症の予防への近道かもしれません。
ちなみに、大豆イソフラボンには、グリコシド型とアグリコン型の2種類があります。豆腐、豆乳、納豆などの大豆製品に含まれるイソフラボンはグリコシド型です。摂取すると、腸内細菌によって糖が分解されて、アグリコン型になります。こうなってはじめて腸管から体内に吸収されます。
一方、味噌の中に含まれるのは、アグリコン型のイソフラボンです。すでに発酵しているため、糖が分解されている状態なので、摂取した後、腸内で分解する必要がなく、からだに吸収しやすい状態になっています。
参考情報:https://www.fsc.go.jp/hyouka/isoflavone/hy_isoflavone_hyouka_point.pdf
いかがでしたか。
今回は味噌の成分に着目して、今回は特徴的なものを9つご紹介しました。味噌を上手に暮らしに取り入れて、ウェルネス豊かに過ごしていきたいものです。